【トピックス】最高裁判決:非流動性ディスカウントを認めず
非流動性ディスカントは、M&A実務において、マイノリティ・ディスカントやサイズ・プレミアムと同様に、長らく当事者間の交渉の材料、調整事項として取り扱われてきました。非流動性ディスカウントに関する理論的な根拠やディスカウント率については議論があり、また、この概念が当事者間の交渉の調整事項となっていることから、第三者評価(バリュエーション)の実務においても統一的な規定がなく、案件ごとの個別判断に依拠しているのが実態といえます。

この非流動性ディスカントついて、このような減価が認められないという最高裁判決が出ました。

しかし、全面的に概念を否定したわけではなく、あくまでも


非上場会社同士の合併で
反対株主の株式買取請求が行われ、買取価格を争っていたところ
収益還元法では「非流動性ディスカウント」が認められない

という限定的な局面での判断となっております。

(以下、引用)
非流動性ディスカウントは,非上場会社の株式には市場性がなく,上場株式に比べて流動性が低いことを理由として減価をするものであるところ,収益還元法は,当該会社において将来期待される純利益を一定の資本還元率で還元することにより株式の現在の価格を算定するものであって,同評価手法には,類似会社比準法等とは異なり,市場における取引価格との比較という要素は含まれていない。吸収合併等に反対する株主に公正な価格での株式買取請求権が付与された趣旨が,吸収合併等という会社組織の基礎に本質的変更をもたらす行為を株主総会の多数決により可能とする反面,それに反対する株主に会社からの退出の機会を与えるとともに,退出を選択した株主には企業価値を適切に分配するものであることをも念頭に置くと,収益還元法によって算定された株式の価格について,同評価手法に要素として含まれていない市場における取引価格との比較により更に減価を行うことは,相当でないというべきである。
したがって,非上場会社において会社法785条1項に基づく株式買取請求がされ,裁判所が収益還元法を用いて株式の買取価格を決定する場合に,非流動性ディスカウントを行うことはできないと解するのが相当である。
(引用終了)



なお、有名な判決として、東京地裁平成20年3月14日決定の譲渡制限株式の売買価格申立事件がありますが、この事案ではサイズ・プレミアム、マイノリティ・ディスカウント、非流動性ディスカウントについて考慮すべきではないとされています。

会社法の株式買取価格の決定においても事案によって当事者間の利害や妥協点は異なりますので、一概にすべての事案に類推することはできませんが、一つ興味深い判決がでました。

この判決が出たことによってM&Aの実務が直ちに変わることは考えづらいものの、今後の実務への影響については注意深く動向を見守っていく必要があります。

一方、会社法による裁判目的の『株価鑑定』業務では、参照する重要判決になりそうです。

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